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母国語がないということ 

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■ ハルペンジャックの12ヶ国語の旅エッセイ
~ 母国語がないということ

私は1946年ポーランド系ユダヤ人の父とロシア系の母との間に生まれました。


父は若い頃から世界のあちこちを放浪し、様々な商売をしてましたが、
私が生まれたのは西ドイツ(当時)のミュンヘンで雑貨店を
開いていた時のことです。


私は四歳まで西ドイツで過ごし、幼稚園にも行ったので、
ドイツ語は一応四歳の子供のレベルで話せましたが、
家の中ではイディッシュ語を使ってました。

欧州、特に東欧系のユダヤ人が話す言語で、
発音はドイツ語に非常によく似ていて、
表記にはユダヤ教の文字であるヘブライ文字を使用する言語です。

このイディッシュ語は私にとって母国語というよりは‘母語’と呼ぶべきもの。

日本では母国語も母語も全く同一で区別できません。
国家と言語がほぼ一致するからです。

でも、イディッシュ語は国家を持たないので、
私の場合イディッシュ語は母が教えてくれた言葉、つまり母語。
英語で言うところの 'mother tongue'ということになります。




私が四歳になった時、一家はイスラエルに移住しました。

当時のイスラエルではヘブライ語の他にアラビア語を使う人が多いのですが、
なにしろ世界各国から人々が集まって来ているので、
隣の人がハンガリー語を使っているかと思えば
向かいの人はルーマニア語を使い、
そのまた隣はロシア語という感じで、
正に世界各国の言葉が周り中で飛び交っている状態でした。

同じユダヤ民族同士でも、実質的には生活習慣も感性も言葉も違い、
数多くの外国人と日常的に接し、話しているというのが
当たり前の生活だったのです。

このように多言語的な環境に晒されて育った幼い私は、
どんな人とも自然に友達になれるようになりました。

言葉に関しても特別な学習法などあろう筈がなく、
日本人が日本語を覚えるように、
ごく自然にヘブライ語を覚えていったわけです。



そして小学校に入ると、
ドイツ語はたちまち記憶の底に隠れてしまって忘れたも同然、
ヘブライ語とイディッシュ語を使う毎日が続いていました。

私が九歳になった時、
今度はフランスを経てブラジルに移り住みました。
半年も経つと、今度はヘブライ語が隠れてしまい、
その代わりポルトガル語がブラジル人と変わらないほどペラペラになっており、
読み書きは勿論、考える時も夢の中でさえもポルトガル語を使っていた。

ブラジル生活の間に母が病死、父もショックで病気になるという状態で
途方に暮れていた私達は、親戚を頼ってアメリカへ渡りました。

そして私はユダヤ教の熱心な信者であった父の勧めで
「イエシヴァ」というユダヤ人の神学校に入学、寮生活を始めたのです。

この学校は高校と大学に相当する所で、立派なユダヤ人の養成を目的とし、
聖書やタルムード、その他もっと難しい古典を体系的に勉強させらました。

学校では殆どの者がイディッシュ語を話してましたが、
アメリカだから英語を使うこともしばしばで、
英語など全く知らなかった十三歳の私も、次第に英語を覚えていきました。

また、学校には南米からの留学生も多く、
私がポルトガル語、彼らがスペイン語で話せば、
何ら支障がなく意志の疎通はできるのです。

思えば、これが私とスペイン語の出会いでした。

とにかく多言語的な生活で、教室の中だけでも、
祈りにはヘブライ語、『タルムード』ではアラム語、
先生と生徒の会話はイディッシュ語、
その他の会話には英語と、
常時四ヶ国語が使われている状態が続いていたのです。

こうして私は十代のうちに、
西ドイツ、イスラエル、フランス、ブラジル、アメリカと五ヶ国に転々と移り住み、
イディッシュ語、ドイツ語、ヘブライ語、ポルトガル語、アラム語、英語と
六つの言語を覚え、
スペイン語にも触れることになったのです。

(続く)


次回からは「私と日本語との出会い」などを語ります。


本日はこれまで!


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12カ国語達人のバイリンガルマンガと十戒(英語版)


△発行者  : ハルペンジャック(春遍雀來)
△編集人  : 入野康隆
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┌────────────────────────────────┐
今日のまとめ

★ イディッシュ語=母語≠母国語

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